2014年6月16日〜30日
6月16日  ロビン 〔調教ゲーム〕

 エリックはランダムを抱きかかえて、室内にあがってきた。

 ランダムはヒイヒイ咽喉を鳴らし、からだを揺すり、エリックの首にしがみついている。
 
 その後から、ご主人様とミハイルがあがってきた。
 おれは笑った。

「あれ、明日じゃありませんでしたっけ?」

 ご主人様は苦笑して、仕事が一日早く終わったと言った。ふたりともクルーズの誘いを断って、帰りたがったと。

 「ミハイルが」

 エリックが笑った。

「おまえらが心配だって」

「嘘をつくな。軍曹」

 ミハイルの声は冷たかった。

「泣いたのバラすぞ」


6月17日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 エリックはあわててランダムを抱え、二階へあがってしまった。

 ミハイルは渋面をつくり、

「あいつ、本当に辛抱がない。アフリカに電話をかけたいと毎日こぼすんだ。毎日! 無線を通して訴えてきた時は、客の前で眉間にしわが寄ったよ」

 ご主人様も笑った。クルーズよりランダムに会いたいと、エリックに泣かれたと。

「あいつはクビです」

 ミハイルは憮然と言った。

「次からはプロの交代要員を」


6月18日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ひさびさにフルメンバーのにぎやかな夕食となった。

 エリックはランダムに水をとってやったり、サラダをとりわけたり、かいがいしく世話をしている。

 少々甘やかしすぎだ。かまいたくて仕方ないようだ。

 ランダムは行儀悪く弾んでいた。青い目が輝き、うれしさを抑えきれない。

 やはり昨日までとは顔の明るさがちがう。出ない声で、笑うようにあえいでいた。

 ミハイルもまた、実にいい顔をしていた。
 彼は出て行く前よりも凛々しく、大きく見える。仕事のオーラがまだ残っている感じだ。


6月19日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ご主人様は日本に帰った。

 昨夜はフィルの部屋に行ったようだ。おれはふざけて彼をなじった。

「おれだっていい子にしてたのに」

「ぼくが一番、問題だと思ったんだろ」

 彼は冷蔵庫から牛乳をとり出しながら、

「ぼくがやきもちを焼いていたのがわかったんだろうな」

「――」

 珍しいことだ。彼が自分の気持ちを口にするなんて。

 彼は牛乳をグラスに注いで飲んだ。グラスを置き、

「不安になるんだよ。たまに。ミハイルもエリックもあの人についていられる。ぼくは? 外で彼に何ができるんだろうって」


6月20日 ヒロ 〔クリスマスブルー〕
 
 アフリカはすでに猛暑。

 おれの好物、そうめんの季節だ。

 毎晩、そうめんとかき揚げ。タレはごまダレもまたよし。

 でも、ついにマキシム姫が言った。

「飽きた」

 しかし、こいつはおれがゴーヤチャンプルを作っても食べないし、カレーも二日続くと文句を言う。

「じゃ、またロシア料理を何か作るか」

「もうあれも飽きた」

「何が喰いたいんじゃい!」

「ひんやりして、うまいもの」

「冷奴か」

「主食で」

「そうめん」

「……」

 ……直人くん、姫が夕飯にコーラを飲んでます。たまにはアフリカに帰りませんか。


6月21日 カシミール 〔未出〕

この季節は仕事が遅めにはじまります。

 日中はご主人様がたも太陽を避けて昼寝しているので、夕方からのシフトが多いです。うっかり昼に犬を連れ出すと、熱中症で死にかねませんからね。

 でも、クリスは主人のいない犬の調教をあえて昼にやっています。

「昼に散歩に連れ出すと、すぐに皿から水を飲むようになるぜ」

 朦朧としているところに、ちょっとずつ水を足すと、恥も外聞もなく皿を舐めるそうです。暑さで理性もゆるむので、工期が短縮できるそうですよ。


6月22日 ルイス 〔ラインハルト〕

 最近、アキラもおれもいっしょに夕食がとれません。

 夜の調教が多く、その間に食事も組み込まれるので、帰ってくると寝るだけです。

 冷房と暑さで少しバテ気味。セックスにいたらず眠ってしまいます。

「これじゃいかんな」

 アキラはある夜、つぶやきました。

 その二日後、彼は持っていけ、とおれに日本のランチボックスを渡しました。

 昼に開けたら、きれいな紅いショウガの乗ったイナリズシが詰まっていました。
 皆がうらやましがりましたよ。



6月23日 アキラ 〔ラインハルト〕

 ルイスが弁当をよろこんでくれてうれしい。

 おれは日本の弁当文化は好きだ。

 うちは母親が忙しかったから、ねえちゃんが作ってくれたが、ねえちゃんのほうれん草入り卵焼きや今でも好きだ。

 たまには生活に手をかけないとダメなんだ。

 忙しい、あとまわし、じゃ、結局大事なものまでガタガタになってしまって、あとで泡喰うはめになるんだ。

 飯粒のついたからっぽの弁当箱を見るのもいいもんだ。このいい気分のために、寝る前にチキンに味をつけておくぐらいなんでもない。


6月24日 アンディ 〔フィルゲーム〕

CFで新入りのやつが、いじめられていた。

 取り囲まれ、アイスキャンディーバーを押し付けられていた。

「もっと色っぽくしゃぶれよ」

「汁をなめるんだ」

 おれはジレンマに駆られた。

 助けるべき? でもやめろよって言って、やめてくれなかったら? おまえが代わりにやれって言われたら? 

 その時、通りがかった男がぱくっとそのアイスを頬張った。三人を見ながら、アイスを半分かじりとり、頬をふくらませて去った。

「……」

 三人は何も言わなかった。

 くうう、アルフォンソ、かっこいー!


6月25日 キース 〔わんわんクエスト〕

 アルフォンソがデザートにアイスキャンディー・バーを出しました。

「練乳あずき。ホームメイドだよ。どうぞどうぞ」

 気づくと、ひとが咥えているのを、ニヤニヤ見ています。

「おいしい?」

「うまいよ」

「うふふ。好き?」

「?」

 フィルが憮然として立ち上がり、その頭をぴしゃりと叩いて出て行きました。

 ……数秒して理解した。その後、みんなが無言で彼の頭を小突いて出ていきました。


6月26日 ウォルフ 〔ラインハルト〕

 ラインハルトが朝、ジムでマシンを使っている時、ルイスのランチの話をする。

 アキラが毎日、彼にランチボックスを持たせているらしい。

「昨日のはインゲンに薄切り肉が巻いてあるやつ。ポテトサラダも手作りなんだ」

「ふーん」

「こないだのは、巻いたスシ。シーチキンとかキュウリとか卵が巻いてあるやつ」

「……」

「うずらの卵とかさ、野菜の煮たのも、別のボックスに入ってるんだよ」

「……」

「ちゃんとデザートもあってさ。フルーツが」

「ラインハルト、おれは作らないぞ」

「……そう」


6月27日 ウォルフ 〔ラインハルト〕

 昼、カレーでもオーダーしようとしたら、ラインハルトがオフィスに来た。

「ベントー見参!」

 ドンとでかいランチボックスがおかれた。

「見て。これ日本製! 保温機能があって、あったかいスープも飲めるんだ。中も三段になってる。ま、食べてよ」

「……」

 一段目。全面ブロッコリー。

 二段目。全面ハム。

 三段目。全部薄切りパン。

 ……ベントーってこういうもの?


6月28日 ルイス 〔ラインハルト〕

 ラインハルトが嬉々として、ランチボックスを開けてみせました。

「やっと作ってくれた!」

 ロールパンのチキンサンドイッチと野菜スープ。ポテトスティックです。

「大変だから、休みの日だけだってさ」

「いいなあ」

 カシミールがのぞきこみます。

「おれもここのランチのローテーションも飽きたんだよね。こういうの食べたい」

 なー、と船長に話をむけると、船長は

「おれもカシミールのランチが喰いたい」

「おい」

「ミートパイとキッシュとシーザーサラダと、あと」

「おれ、クリスとランチ食う」


6月29日 ファビアン 〔調教ゲーム〕

 夏休み前に、急いで自分の休みをとってきました。

 デクリオンに叱られました。手首を腫らしていたので。

 今回は砂漠に行っていたのです。
 わたしは人嫌いではありませんが、たまに一人にならないと疲れてしまいます。

 時間がない時は海に行き、余裕がある時は砂漠に行きます。友人からジープを借りて、彼の部族の土地でキャンプをします。

 砂の上に寝そべり、星の大海を眺めると、時間が止まります。地球と一体になった気がして、一切が消えます。

 でも、サソリは、消えてなかったようです。


6月30日 フィル 〔調教ゲーム〕

 アフリカの夏は厳しいです。ぼくは元からあまり家を出ませんが、アルも最近は夕方まで外出しません。

 中庭では、ランダムがキースの花壇に貼りついています。トマトの苗のにおいを嗅ぐのが好きなのです。

「熱中症になるぞ」

 アルは彼に帽子をかぶせたり、水筒を持たせていますが、ランダムは言われないと飲みません。

 先日、本を読んでいると、ランダムのかすれた笑い声がしました。ランダムが飛び跳ねてはしゃいでいます。

 アルが二階から彼の上に、じょうろで水を撒いていました。


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